1. この試合の面白さ
UFCフライ級が、日本人にとって本気で“世界一”を狙える階級になってきた。
堀口恭司がUFCカムバック戦でタギル・ウランベコフをR3 RNCで沈め、王者パントージャへのタイトル挑戦を堂々コール。
その同じライン上で、別ルートから頂点を狙うのが平良達郎だ。
本来はアルバジとのメインイベント級マッチアップが組まれていたが、直前欠場でカード消滅 → 代打ヒョンソン・パク戦をR2一本でキッチリ回収。
その次に用意されたのが、元二度の王者ブランドン・モレノ。TUFエキシを含めパントージャと“3度”拳を交え、フライ級の山の形そのものを作ってきた中心人物だ。
数字だけ見ていると見落としがちなポイントはシンプルで、でも重い。
- モレノの「プロ戦ではサブミッション負け無し」という異常なサブディフェンス
- ここ1〜2年で一気に洗練された平良の打撃(ペレス戦〜ロイバル戦〜パク戦)
グラップリング寄りオールラウンダー vs ボクシング寄りオールラウンダー。
この噛み合わせを、「数字」と「相性」で分解していく。
2. 当ブログについて
このブログでやることは3つ。
- UFC公式スタッツ+外部データをベースに、両者の武器を数値で可視化する
- 「結果論」ではなく、どのフェーズで・どの技術差が試合を動かしうるかという“因果”で語る
- 最後に、オッズを踏まえた仮想ベットの方向性まで落とし込む(=ただの応援じゃなく、期待値を見に行く)
感情や願望はしっかり込めつつ、スタッツとスタイルの噛み合わせで試合を言語化していくブログだ。
3. スタイルマッチアップの整理
一言でいうと、
「トップゲーム&バックハント型グラップラー vs チェーンレスリング持ちボクサー」。
- 平良達郎
- 得意:シングルレッグ〜バックテイク、トップキープ、バックチョーク
- 打撃:ここ1〜2年で“ただのつなぎ”から、普通に勝負できるレベルへ成長
- 試合の軸:テイクダウン→バックに回ってRNC、もしくはトップからじわじわ削る
- ブランドン・モレノ
- 得意:前手ジャブ/ワンツー/左ボディ、前進プレッシャー、チェーンテイクダウン
- グラップリング:スクランブル強者&サブオフェンスも高水準。ただしプロ戦ではサブミッション負け無し(TUFエキシでのみRNC負けあり)
- 試合の軸:押し返すプレッシャーとボリューム、長いラウンドでの“削り”
このカードは、
- R1で平良が自分の形(テイクダウン→バック)をどこまで通せるか
- R3で、5R王者経験を持つモレノの“後半のギア”を3R仕様でどれだけ発揮できるか
この2点に集約される。
4. データで見る両者の武器
4-1. 基本プロフィールと戦績
| 項目 | 平良 達郎 | ブランドン・モレノ |
|---|---|---|
| 年齢 | 25歳(2000/1/27生) | 31歳(1993/12/7生) |
| 身長 | 170cm | 170cm |
| リーチ | 178cm | 178cm |
| プロ戦績 | 17勝1敗 | 23勝8敗2分 |
| フィニッシュ内訳 | KO/TKO 5・SUB 8・判定4 | KO/TKO 5・SUB 11・判定7(負けは全て判定) |
| 所属 | The Blackbelt Japan(那覇) | Fortis MMA(ダラス) |
| ファイター分類 | グラップリング寄りオールラウンダー | ボクシング寄りオールラウンダー |
4-2. 主要スタッツ比較(UFC公式ベース)
※SLpM(1分間の有効打数)、SApM(1分間の被有効打数)
| 指標 | 平良 達郎 | ブランドン・モレノ | 備考 |
|---|---|---|---|
| SLpM(1分あたり有効打数) | 2.87 | 3.96 | モレノが手数多め |
| SApM(1分あたり被弾) | 2.54 | 3.62 | 平良の方が被弾少ない |
| Str.Acc(有効打精度) | 60% | 44% | 平良は精度高いショットを選ぶタイプ |
| Str.Def(有効打防御率) | 47% | 60% | モレノは被弾は多いが「見えてる被弾」が多い印象 |
| TD Avg(15分あたりTD数) | 約2.7回 | 約1.5回 | 両者とも「必要なら組める」レベル |
| TD Acc(テイクダウン成功率) | 44〜48%程度 | 44%前後 | どちらも平均以上 |
| TD Def(TD防御率) | 45〜50%台 | 64% | モレノは倒されてもすぐ立つタイプ |
| Sub.Att(15分あたりサブ試行) | 1.6〜2.3 | 0.4前後 | サブの頻度は平良が上 |
スタッツから見える両者のキャラをざっくり言うと、
- 「テイクダウンを量産しながらサブも狙い続ける平良」
- 「必要な場面でだけテイクダウンとサブを織り交ぜるモレノ」
という構図。
防御面は、テイクダウンディフェンスはモレノ優位、打撃の被弾コントロールは平良がクリーン
という、かなり“好カード感”のあるバランスになっている。
5. 勝敗を分けるポイント
ここからは、データに加えて筆者の主観も踏まえて「どこが本当の分かれ目か」を整理する。
5-1. R1で平良が「明確なトップポジション」をどこまで取れるか
- R1で綺麗なテイクダウン → パス → バックまで行ければ、3R戦ならそのラウンドをほぼ確実に取れる。
- 逆に、ケージ際でのシングルを何度も切られ、逆に差し返される展開になると、「グラップラー側なのに削られていく」構図になりかねない。
5-2. 平良の打撃が「ロイバル戦以降どこまで伸びているか」
- ロイバル戦では、打撃の展開で一方的に何もできないわけではなく、自分のパンチやカウンターがしっかり当たる場面も作れていた。
- そこからペレス戦〜パク戦にかけて、「つなぎ」だった打撃が、より“勝負できる打撃”に近づいてきた印象がある。
- 一方でモレノは、フィゲイレード3連戦+パントージャ戦+アルバジ戦+エルセグ戦と、常にトップ中のトップと殴り合ってきたキャリアを持つ。
- 「平良のボクシングが、モレノのレンジでどこまで機能するか」が二つ目の分岐点。
5-3. R3のスタミナ勝負で、どちらが前に出られるか
- モレノはフライ級2位の「平均ファイトタイム17分超え」を持つ超ロングラウンド型ファイター。
- 5R戦を何度もこなしてきた身体とメンタルは、3R戦終盤で確実に効いてくる。
- R3開始時点で1-1なら、「より前に出る方」「手数を落とさない方」がそのまま判定をさらっていく可能性が高い。
6. ラウンドごとの展開予想
ここからは、筆者の主観も含めた「現実的そうなライン」をラウンドごとに並べていく。
R1
- 立ち上がり
- モレノがやや前に出てジャブとフェイントで距離取り。
- 平良はローと前手でタッチしながら、早めのテイクダウントライを1〜2回混ぜるイメージ。
- 打撃の噛み合い
- 中間距離ではモレノの方が手数・コンビネーションが多い。
- ただし平良は被弾を最小化しつつ、シングルレッグやボディロックに繋がるエントリーを優先。
- テイクダウンの可能性
- ケージ際でのシングル〜ハイクロッチから、1〜2度テイクダウン成功のシナリオは十分現実的。
- ただしモレノはスクランブルと立ち上がりが非常に上手く、「完全な3分コントロール」まではいかない可能性が高い。
- R1の流れ
- パターンA:平良が1〜2回テイクダウンを奪い、トップまたはバックをある程度キープ → 10-9平良。
- パターンB:テイクダウンは取るがすぐ立たれ、スタンドの手数と圧でモレノに10-9。
- どちらも起こり得るので、「R1がほぼ全て」と言っていいくらいのラウンド。
R2
- 調整力の差
- モレノは相手のテイクダウンタイミングを早めに掴むタイプで、R2からスプロールが一段階上がるパターンが多い。
- 平良側は、R1のテイクダウン成功・失敗を踏まえて、腰切りの角度やエントリーのタイミングを微調整するはず。
- 圧力と距離の変化
- R2序盤からモレノの前進圧が強まると、平良がケージ際に詰まる時間が増える。
- ここで「打撃で付き合うのか」「割り切って足を取るのか」の選択が問われる。
- ダメージの影響
- お互いワンパンで終わるタイプではないが、ボディとローが効いてくるのはこのラウンド。
- 特にモレノの左ボディ→左フック→右ストレートのコンボが入り始めると、平良のエントリーが鈍りやすい。
- R2の流れ
- 全体としてはモレノがわずかにペースアップしやすいラウンド。
- テイクダウン数よりも手数・前進・有効打数が評価され、10-9モレノになる確率が高いイメージ。
R3
- スタミナ差
- 3R戦でガス切れするタイプはどちらでもないが、「R3でも当たり前のように前に出続けるメンタル」はモレノに軍配。
- 平良はこれまで、そこまで長期戦で削られ続けた経験が少ない。
- グラップリング精度の変化
- R3時点でテイクダウン成功率は平良が落ちてくる可能性。
- 一方モレノは、逆に自分からボディロックTDや足掛けを混ぜてポイントを積みにくるパターンもあり得る。
- 判定ならどちらが取りやすいか
- 「前進」「手数」「終盤の印象」でジャッジが傾きやすいのはモレノ。
- 1-1でR3突入 → 僅差でモレノに寄るラウンド、という構図が最も現実的。
7. 勝敗予想
7-1. 予想する勝ち方とスコア
- 勝者予想:ブランドン・モレノ
- 方法:判定
- 想定スコア:29-28モレノ(平良がR1、モレノがR2・R3)
7-2. そう考える理由
- プロキャリアでサブミッション負け無しのモレノを、3Rの中で極めきるハードルの高さ
- パントージャやフィゲイレードとフルラウンド戦ってもサブで沈んでいない事実は重い。
- 平良がバックを取る場面は作れても、「そこからフィニッシュまで」を3Rのどこかで必ず通すのはかなり高難度。
- 5Rタイトル戦を何度もこなしてきた“長期戦仕様”の身体とメンタル
- フライ級トップのトータルファイトタイム&平均ファイトタイム(17分超)は伊達じゃない。
- 特に1-1で最終Rに入った時に、何事もない顔でギアを一段階上げてくる「当たり前の強さ」は、現時点の平良にとっては未知の領域。
- ジャッジの印象を取りやすいスタイル差
- 前進、手数、顔面へのクリーンヒットという「見栄えの良さ」はモレノ側に寄りがち。
- 平良はどうしても「見えにくい削り(グラウンドコントロールやサブの脅威)」で勝負する時間が長くなる。
もちろん、気持ちは平良全面応援。
ただ、今の数字とキャリアの質だけを切り取ると、薄くモレノ有利…というのが冷静な答えかな、という感覚。
8. オッズを踏まえた仮想ベット
ここからは完全に「仮想SIM」の話。
実際のお金ではなく、ポイント制で自分の予想の精度とマーケットの評価を検証していくための仕組みとして使っている。
8-1. 仮想SIMのルール
当ブログでは、この試合のオッズを「仮想ポイント」でシミュレーションしている。
- 仮想バンクロール:1万pt(シーズンのスタート資金)
- 1大会でベットに回せるのは、そのうち最大30%(=3000pt)まで
- 1試合あたりのベットは、バンク全体の2〜10%程度を目安にする
あくまで、オッズに対する自分の目線の精度を測るための“自己採点システム”。
筆者自身は実際のお金を賭けておらず、あくまで数字遊びとして楽しんでいる。
8-2. 平良 vs モレノ戦にどう割り当てるか
今大会は「総額3000ptまで使える」という前提にしているが、
この試合に割り当てるのは次の1本だけ。
- 仮想ベット内容:Brandon Moreno by Decision(判定勝ち)
- ベット額:1000pt
- オッズ:2.47(decimal)
- 的中時:1000pt → 2470pt(+1470pt)
理由はシンプルで、
- 分析パートの本線ストーリーが「29-28モレノ判定」
- マーケットは「やや平良寄りのほぼ五分」と見ている
- そこに対して、「いや、判定での勝ち筋はまだモレノ優位だろう」という筆者の見立てを数字で表現したかった
からだ。
この1本が当たれば、「モレノ判定」というストーリーが結果と噛み合っていたことになるし、
外れれば「どこで読みを誤ったのか」を、またデータから掘り返せる。
この試合以外にどのカードへどう配分するかは別記事で扱うとして、
ここではあくまで「平良 vs モレノ」という1試合に対して、
当ブログがどういうスタンスでポイントを置いたのか、というところだけを残しておきたい。
8-3. 注意書き
ここで紹介しているオッズやポイント配分は、すべて記事執筆時点の参考情報であり、
実際のベットを推奨するものではない。
オッズは常に変動するし、オンラインベッティングには経済的なリスクが伴う。
当ブログはあくまで「仮想SIM」としてポイントの増減を楽しみながら、
自分の予想とデータの精度を検証しているだけ、という前提で読んでもらえると嬉しい。
9. まとめの一言
平良の若さと成長曲線は、データを一撃で古くする。
今の数字だけ見れば、ほんの少しモレノ寄り。
それでも、ロイバル戦からパク戦までの伸びを見ていると、
「ここでモレノを食って、一気にタイトルコンテンダーラインまで飛び込む日本人」
を期待せずにはいられない。
データで見るとモレノ。
心では、平良達郎に全ツッパ。
